【2018ジャパンカップサイクルロードレース】取材録〜アジア最高峰のワンデーレースという意義〜
日本のサイクルロードレースの秋の風物詩、2018ジャパンカップサイクルロードレースが終了した。アジア最高峰の「HC」を冠するレースは、事実上シーズン最後の本番レースとあって、選手、観客ともに他のレースとは違った思い入れを持って臨み、盛り上がりを見せる。取材を通して改めて感じたことを振り返る。
なぜ、盛り上がるのか
今年の観客数は、日曜のロードレース本番で約82,000人、土曜日のクリテリウムで約50,000人弱集まったという。毎年5月に行われる国内最大級のステージレースである「ツアー・オブ・ジャパン」の東京ステージの約12万人を凌ぐ人出である。人口比を考えれば文句なしに日本でもっとも集客力のあるロードレースイベントということになる。
それはやはり、あまりきちんと公表されていないがロードレースのコースが本格的であることと、そのことによる出場選手のレベルの高さが要因だろう。
1周10.3km、高低差260mのコースを14周する計144.2kmのコースは、実は獲得標高差が3,500mを超える。このコースを、先日決定した東京オリンピックの男子ロードレースの距離と同じ244kmまで延ばすと仮定した場合、なんとそのオリンピックコースの獲得標高をはるかに超える5,800m強となるのだ。もちろん周回コースであることや勾配など多くの違いがあるが、ほぼ登りと下りしかないコースレイアウトも相まって、世界的に見ても非常にレベルの高いコースであることは間違いない事実だ。
レース自体はトップカテゴリではない「UCIアジアツアー」に属しているので、ワールドツアーチームはそれほど出場することはないが、それでも毎年数チームが出場し、そして実力派の中堅どころ、あるいはワンデーレースのエースを連れてくるのにはそういった理由がある。
「最後」だから
毎年10月の第3週に開催されるこのレースは、UCIワールドツアー、アジアツアーなどのプロツアーのスケジュールの最後にあたる(エキシビジョン的なレースはその後数週間あるが、UCIの正式なツアーのレースではない)。したがってこのレースで引退する選手が花道として来日する機会も多い。また、その他の選手もシーズン最後を楽しむような様子も多く見られ、その姿を見るために観客も訪れるという構図がある。
これはクリテリウムのスタート前。スタート前の歓談はどのレースもあるが、シーズン最後とあって笑顔の多い印象があった。
チーム右京のオスカル・プジョル選手はレース前に、今大会限りでの引退を発表していた。その独特の風貌と、全盛期の圧倒的な登坂力で日本のファンを魅了していただけに、彼の最後の勇姿を見ようと訪れたファンも多かったようだ。
また特に近年、トップ選手がこのレースで引退することが多くなった。一昨年はファビアン・カンチェラーラ、昨年はアルベルト・コンタドール(ともに当時トレック・セガフレード)と、世界で名を馳せ一時代を築いたトップロードレーサー、日本でも宮澤崇史選手などが最後のレースにこのジャパンカップを選んでいる。今年のレースではサイモン・ゲランス(オーストラリア、BMCレーシング)、マシュー・ヘイマン(オーストラリア、ミッチェルトン・スコット)らがこのレースでの引退を選んだ。正式発表はされていないが写真のローラン・ディディエ選手もジャパンカップが最後のレースと言われていた。中盤でメイン集団から遅れると、観客とこうしたかたちで交流を楽しみつつ周回。こうした姿も、シーズン最後ならではと言えるだろう。
日本でも特にファンの多かったダミアーノ・クネゴ選手には引退式を挙行。これもレーススケジュールの最後だからこそできる粋なはからいだ。
引退する選手以外でも、ジャパンカップ、あるいは日本に思い入れの強い選手は多いようだ。マヌエーレ・モーリ選手(UAEチームエミレーツ)は、チームとしての出場が叶わないとなると、クリテリウム特別編成のスペシャルチームに加入、来日を果たした。レース後のイベントでは「宇都宮は一生忘れられない街だ」と「宇都宮愛」を披露し観客の喝采を浴びた。
観客もならではの楽しみ方がある
ジャパンカップを観戦するファンたちは、初めて訪れる方も、常連の方も、様々な楽しみ方を知っている。コース閉鎖前にロードに応援ペイントをしたり、手作りペナントを、スピードが落ちてよく見える古賀志林道のつづら折りに掲げたり。非常に多くの多彩な応援のかたちが見られた。
また時間がなく撮影できなかったが、毎年非常に多くの方が様々なコスプレをして観戦している。あの有名な悪魔おじさん風であったり、ポディウムガール風であったり、はたまた今年は目玉おやじ(自分はスタート前に撮影頼まれました 笑)といった方も。数時間にわたるレースを、自分たちなりに楽しみ尽くそうという姿を見るのも、また楽しいひとときだ。
毎年観戦後、来年はもっともっと楽しみたい、取材したいと必ず思う「ジャパンカップ・サイクルロードレース」。2019年はオリンピック前年、どんなレースが繰り広げられるだろうか。