昨年の第30回を越え、新たなディケイドを迎えた「宇都宮ジャパンカップ サイクルロードレース」。今回から自転車のまち「輪都」宇都宮の認知を世界にさらに高めようと、レース名称に宇都宮を掲げ、その象徴として新たな歴史を刻んでいく。激しいレースとなった模様を詳報する。
スタート〜序盤
前日のクリテリウムとは打って変わり、会場となる宇都宮森林公園は爽やかな青空に秋らしい17℃という気温。少しばかりの強風は波乱も感じさせるが、基本的には素晴らしいロードレース日和だ。
スタート時の隊列で見ての通り、今回は日本のチームのいくつかが最前列に陣取って主導権を握ろうと意思表示。号砲が鳴ると勢いよく飛び出していく。しかし、古賀志の登坂で先頭を切ったのはアンドレア・パスクアロン(イタリア/バーレーン・ヴィクトリアス)、続いてハミッシュ・ビードル(ニュージーランド/ノボ ノルディスク)。さらに登り切ってダウンヒルに入るとかなりのスピードでスパートをかけ、逃げを成立させようと疾走する。スタートラインで最前列にいたシマノレーシングの中から入部正太朗が下りで必死に食らいつき、続いて山本大喜(JCL TEAM UKYO)、サイモン・イェーツ(英国/ジェイコ・アルウラー)、ゲオルク・シュタインハウザー(ドイツ/EUデュケーション・イージーポスト)が取りついて6人の逃げ集団がいったん成立。メイン集団とは39秒の差をつけた。
2周目に入っても、さらに差を広げようとスピードがもう1段階上がる。そのため入部とビードルが登坂前の登り口で遅れ、逃げ集団は4人に。この4人が先頭交代し、後続との差を広げようと協力。3周目終わりには45秒まで差を広げる。その後続はリドル・トレック、コフィディスが前に並びコントロールしていたが、逃げ集団にメンバーを送り込めていないため、4周目の登り口で一気にペースを上げ逃げ集団を吸収。同様に5人の逃げに入っていなかったワールドチームもこの動きに参加し、さらなる逃げを許さない、せめぎ合いが続く混沌とした展開となる。
なおこの日が公式戦最後となった畑中は、3周目を最後の挨拶とばかりパレードラン。「彼がいなければ今の自分はなかった」と自身のSNSで引退を惜しんだ入部が「露払い」としてともに走り、この周回のフィニッシュでともにレースを終えた。
中盤
6周目にはモホリッチ、ジングレらが仕掛けるもすぐに吸収されるなど逃げが潰される流れが続くが、そのなかで小石祐馬(JCL TEAM UKYO)をはじめ日本勢も複数回トライ。9周目には小石、石上優大(愛三工業レーシング)、留目夕陽(EFエデュケーション・イージーポスト)を含む9人の先頭集団が形成され、観衆の期待も高まるが、10周目の古賀志登坂でマイケル・ウッズが仕掛けたのをきっかけにふたたびシャッフル。ウッズは下って以降も動き続け、結果14人が抜け出して後続に45秒の差をつけることに成功した。
10周目終了時点の先頭グループ
エドアルド・ザンパニーニ(イタリア/バーレーン・ヴィクトリアス)
ヤコブ・フルサン(デンマーク/イスラエル・プレミアテック)
ジュリアン・ベルナール(フランス/リドル・トレック)
アーチー・ライアン(アイルランド/EFエデュケーション・イージーポスト)
マウリ・ファンセヴェナント(ベルギー/スーダル・クイックステップ)
マイケル・ウッズ(カナダ/イスラエル・プレミアテック)
ルーカス・ネルウカー(英国/EFエデュケーション・イージーポスト)
トムス・スクインシュ(ラトビア/リドル・トレック)
マテイ・モホリッチ(スロベニア/バーレーン・ヴィクトリアス)
ヨハンネス・アダミーツ(英国/ロット・ディスティニー)
イラン・ファン・ウィルデル(スーダル・クイックステップ)
アクセル・ジングレ(フランス/コフィディス)
ニールソン・パウレス(アメリカ/EFエデュケーション・イージーポスト)
ブレイディ・ギルモア(オーストラリア/イスラエル・プレミアテック)
終盤、表彰台目指した激しいせめぎ合いへ
11周目に入り残り4周、終盤とあってここからさらに間髪入れず振るい落としが始まる。古賀志登坂でニールソン・パウレスが果敢に登りアタック、マイケル・ウッズも付いていき2人で山頂へ。下りに入ると3人が追いつき、先頭集団は5人に絞り込まれた。
最後に残った5人
マウリ・ファンセヴェナント(ベルギー/スーダル・クイックステップ)
マイケル・ウッズ(カナダ/イスラエル・プレミアテック)
マテイ・モホリッチ(スロベニア/バーレーン・ヴィクトリアス)
イラン・ファン・ウィルデル(スーダル・クイックステップ)
ニールソン・パウレス(アメリカ/EFエデュケーション・イージーポスト)
最終盤、実力を知り尽くした5人が心理戦も展開
この5人はさらなる追っ手を振り切ろうと、統制のとれた先頭交代でぐんぐんスピードを上げ引き離しを図る。12周目終了時は後続に1分54秒、13周目終了時には3分近くの差を築き、ここにおいて5人で勝利を争うことが確定。ラストラップは互いの動きを見ながらの駆け引きを繰り返した。その中で、ファンセヴェナントとファン・ウィルデルはスーダル・クイックステップのチームメイトであり、有利に進められる状況だ。
まず古賀志の登り、これまで何回もアタックしてきたウッズがここでも激しくペースを上げる。パウレス、ファンセヴェナントがしっかり付いていき他の2人を引き離すも、続く下りでモホリッチに追いつかれ、さらにファンセヴェナントが先頭交代を拒否する。ローテーションを続けていた残りの3人は走りながら意見交換し、ペースダウン。協力しないファンセヴェナントをそのままにして力を貯めさせるよりは、遅れていたファン・ウィルデルが戻るのを待ち、5人全員のイコールコンディションで最後の勝負に臨もうとする。
しかしここで驚きの展開へ。田野交差点を過ぎたところで追いついたファン・ウィルデルが、追いついた勢いそのまま、後ろから一気にまくり不意を突く。同じチームで2人残せたからこその戦略だが突き放すことはできず、逆に後ろに回ったウッズがカウンターをかけるなど局面は変わらず、再び牽制をかけあう。
このままいけばゴールスプリントになるところだが、5人全員がスプリントが得意なわけではない。ウッズはどちらかといえば、この日の走りでも明らかなようにむしろクライマー脚質であり、モホリッチ、パウレス、ファンセヴェナント、ファン・ウィルデルはワールドツアー・ヨーロッパツアーで勝利経験があるが、いずれも主な勝利は早くからの独走勝利。日頃、当たり前のように同じレースでプロトンを構成する好敵手たちは、フィニッシュゲートが見える前に勝負をかけるタイミングを見据えていた。
残り1kmまでそのタイミングを読み合う動きが続いたあと、ここが本当の勝負どころと仕掛けたのは、ファンセヴェナント。直前にローテーションを拒否し、少しばかり貯めた力を一気に爆発させ数秒のリードを築くが、そこに食らいついてカウンターを狙ったのは、レース全体で積極的に動いていたパウレスだった。ファンセヴェナントが渾身の力で先行するところを、ドラフティングで追いつき残り300m付近からそのままロングスパート。4人を置き去りにし、勝利を確信して大きく手を突き上げながらフィニッシュラインを一番先に駆け抜けた。2022年に続き、ジャパンカップ2勝目だ。
RESULT
1位 | ニールソン・パウレス(アメリカ/EFエデュケーション・イージーポスト) | 3:30:30 |
2位 | イラン・ファン・ウィルデル(ベルギー/スーダル・クイックステップ) | |
3位 | マテイ・モホリッチ(スロベニア/バーレーン・ヴィクトリアス) | |
4位 | マイケル・ウッズ(カナダ/イスラエル・プレミアテック) | |
5位 | マウリ・ファンセヴェナント(ベルギー/スーダル・クイックステップ) | +0:04 |
6位 | ジュリアン・ベルナール(フランス/リドル・トレック) | +4:16 |
7位 | アクセル・ジングレ(フランス/コフィディス) | +4:26 |
8位 | トムス・スクインシュ(ラトビア/リドル・トレック) | +4:35 |
9位 | ルーカス・ネウルカー(イギリス/EFエデュケーション・イージーポスト) | |
10位 | エドアルド・ザンバニーニ(イタリア/バーレーン・ヴィクトリアス) |
勝利コメント ー ニールソン・パウレス(アメリカ/EFエデュケーション・イージーポスト
序盤から戦術的で難しいレースだった。(レースが落ち着かず各選手のアタックが続き)レース中何度も「もう終わったかも」と思っていたが(展開のアヤで)集団はひとつに戻り、サバイバルがあって最後は5人になった。ラストラップはスーダル・クイックステップが2人残っていて難しい状況だったし、モホリッチは絶対に引き離されてはいけない強いライダー。ラスト1kmまで脚を貯めることに専念して、それが結果的に上手くいったね。
2年前も勝利しているし、相性が良いのは分かっている。昨年も来たかったが、ちょうど娘が生まれるときで来ることができなかった。今年は家族も連れてこられて、その前で勝利できてとても嬉しい。
点描:今年も盛り上がりました!
今年は天候に恵まれ、会場の森林公園には約77,000人が詰めかけました(公式発表)。その盛り上がりや会場の雰囲気が伝わる写真を撮ってきましたのでご覧ください。
レース前のサインに並ぶ日本チームたちの列。実はこの写真はスタート約1時間半前の8時30分ごろ。できるだけ早く終えて前に並び、かましてやるぞ!という意気込みを感じました。ある意味、レースはこの時から始まっています。
古賀志のつづら折りの目立つところに設置された、日本のライダーを応援する横断幕。制作にかかる時間を考えると偶然でしょうが、引退発表した畑中選手の応援が多かったですね。本人もこれを必ず見ているでしょうし、感慨深い気持ちになったことでしょう。
やっぱり古賀志の登りはジャパンカップの一番のお楽しみポイント。登坂なので選手たちをゆっくりと見られますし、本場ヨーロッパのワールドツアーに劣らない歓声と応援の声。そして仮想大会も例年にましてグレードアップ‥9頭のティラノザウルスプロトンとマリオ・ルイージ・ワリオ・ワルイージ揃い踏み4人組さんはかなり目立ってました!楽しい雰囲気を作ってくださってありがとうございます。
今年会場に来られた方も、まだ来たことがない方も、ぜひ来年現地で一緒に楽しみましょう!