【2025宇都宮ジャパンカップ】ロードレース、マルティネスが次世代エースの実力見せつける今季4勝目

第32回を迎えた宇都宮ジャパンカップ サイクルロードレース。1990年開催の世界選手権ロードレースのコースをベースとした1周回10.3kmを計14周する144.2kmは、獲得標高約2,590mとグランツールにおける「丘陵」あるいは「中級山岳」とカテゴライズされるステージに匹敵する。世界基準のプロファイルを持つ日本最高峰のワンデイレースは、ワールドクラスの選手を日本に引き寄せるメルクマールであり、日本人選手にとっては世界と戦えるかを明確に試されるベンチマークでもある。
スタートで本場と同じ粋な計らいが
当初は曇天からの降雨が心配されたが、秋らしい爽やかな雲と青空が垣間見える絶好のロードレース日和となった、宇都宮市森林公園内の特設コース。サインインを終えた選手たちは、ウォームアップを終えればスタート/フィニッシュラインに並ぶのが定石だが、この日はその前に、日本ではあまり見る機会のない、選手たちの自発的なセレモニーが行われた。
今シーズンでの引退を発表しているクリスティアン・ズバラーリとダヴィデ・バルダッチーニ(イタリア/ソリューションテック・ヴィーニファンティーニ)、入部正太朗と冨尾大地(シマノレーシング)の4人に対し、リスペクトとはな向けの意味を込め、バイクを立て花道を作り出迎えるセレモニーだ。レースカレンダーの最終盤に行われるジャパンカップだからこそ見られたシーンだろう。

序盤



最初の古賀志林道から飛び出しをかけたジェイミー・ミーアン(アイルランド/コフィディス)をきっかけに、前日のクリテリウムを制したジョナタン・ミラン(イタリア/リドル・トレック)、ゲオルグ・シュタインハウザー(ドイツ/EFエデュケーション・イージーポスト)らが反応しまず6名の隊列ができる。その後シモーネ・ラッカーニ(イタリア/TEAM UKYO)後ろからブリッジをかけて追いつき、3周目なかばには7人の先頭集団が形成された。
プロトンはしばらくこの逃げを容認していたが、4周目に入りアンテルマルシェ・ワンティがメイン集団前方に隊列してブリッジを試み、5周目に突入するまでには吸収。このペースアップに対応した選手も加えると実に35人の、そのほとんどがUCIワールドチームの面々で占められた先頭集団が出現し、日本チームと日本人選手のほとんどにとっては早くも苦しい展開となった。しかしこの中に、橋川丈(愛三工業レーシングチーム)が唯一の日本人選手として滑り込んだ。
後手を踏んでしまった後続は、ソリューションテック・ヴィーニファンティーニを前列に追走集団となり、必死に追いかけようと試みる。


中盤

6周目に突入する頃に成立した35人のプロトンは、ここで落ち着くことはなくさまざまな選手が矢継ぎ早にアタックをかけ、揺さぶりをかけあう。6周目終了時に飛び出したのはヨン・イサギレ・インサウスティ(スペイン/コフィディス)とジュリアン・ベルナール(フランス/リドル・トレック)という、百戦錬磨のベテラン2人だったが、古賀志の登り口でアフォンソ・エウラリオ(ポルトガル)とレニー・マルティネス(フランス)のバーレーン・ヴィクトリアス勢がカウンターをかけすぐに潰していく。いよいよ優勝候補と目される選手たちが動き出したようだ。
しかし、その直後に単騎で飛び出したのが、ルカ・ヴァン・ボーヴェン(ベルギー/ アンテルマルシェ・ワンティ)。反応する選手がいなかったため、メイン集団はそのまま容認することになり、ようやくレースペースが落ち着いた。そのまま快調に差を広げたルカ・ヴァン・ボーヴェンは、9周目の山岳ポイントを見事獲得。


いよいよサバイバル開始
しかしそのすぐ後ろでは、最終盤の争いに向けたサバイバルがいよいよ開幕する。クリスツ・ネイランズ(ラトビア)らをはじめとするイスラエル・プレミアテック勢が古賀志林道で仕掛けペースアップ。激しい揺さぶりで集団は19名まで絞り込まれ、その勢いでルカ・ヴァン・ボーヴェンを吸収。粘りに粘っていた橋川は残念ながらここで脱落となった。


最終盤


19人となったあと11周目が終わるまでは小休止となり、お互いの動きを牽制しながら周回を重ねていたが、ここで最もよいタイミングで仕掛けたのはレミー・マルティネス(フランス/バーレーン・ヴィクトリアス)だった。最後の山岳ポイント周回となる12周目の古賀志の登り口でアタック。一気に7人の小集団への絞り込みに成功しトップで山頂を通過。山岳ポイントを獲得した。
サバイバルに生き残った7人
レニー・マルティネス(フランス/バーレーン・ヴィクトリアス)
ヨン・イサギレ・インサウスティ(スペイン/コフィディス)
サム・メゾノブ(フランス/コフィディス)
アレックス・ボーダン(フランス/EFエデュケーション・イージーポスト)
ライリー・シーアン(アメリカ/イスラエル・プレミアテック)
マティス・ロンデル(フランス/TUDORプロサイクリングチーム)
アレッサンドロ・ファンチェル(イタリア/TEAM UKYO)



7人となってからしばらく争いは小休止となったが、ほぼ全員がクライマーまたはパンチャーの脚質とあって、勝負どころはやはり古賀志林道だった。13周目の登り口でレニー・マルティネスが2回目の仕掛け、2人を脱落させると最終周にもほぼ同じ場所でアタック。前の2回とは明らかにペースの違う「最終ロケット」のような爆発的な登りについていけるライバルはおらず、山頂では10秒の差、その後の下りも圧倒的なスピードで一気に差を広げた。


電光石火の一撃でセーフティリードを確保し、勝利を確信しながらゆっくりと両手を広げてフィニッシュラインを通過。プロ3年目の22歳ながら、これまで通算9勝を挙げているフランス次世代のスターが、記念すべき10勝目を日本で達成した瞬間だった。
今シーズンは「パリ〜トゥール」「クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ」「ツール・ド・ロマンディ」といったワールドツアーでこれまでステージ4勝を挙げ、さらにツール・ド・フランスでは山岳賞ジャージを2度着る栄誉も得ている。押しも押されもせぬフランス期待の新星が日本で見せた輝きは、日本のロードレースファンに本場のレベルと凄みを体感させるに十分だった。
宇都宮ジャパンカップロードレース2025結果
1位 | レニー・マルティネス(フランス、バーレーン・ヴィクトリアス) | 3h30’00" |
2位 | アレックス・ボーダン(フランス、EFエデュケーション・イージーポスト) | +32″ |
3位 | ヨン・イサギレ・インサウスティ(スペイン、コフィディス) | +33″ |
4位 | マティス・ロンデル(フランス、TUDORプロサイクリングチーム) | +40″ |
5位 | アレッサンドロ・ファンチェル(イタリア、TEAM UKYO) | |
6位 | ライリー・シーアン(アメリカ、イスラエル・プレミアテック) | +49″ |
7位 | マイケル・マシューズ(オーストラリア、チーム・ジェイコ・アルウラー) | +1’46" |
8位 | サム・メゾノブ(フランス、コフィディス) | +1’49" |
9位 | ジュリアン・ベルナール(フランス、リドル・トレック) | +2’39" |
10位 | パウ・マルティ・ソリアーノ(スペイン、イスラエル・プレミアテック)U | +2’47" |
アジア最優秀選手賞


※アジア人最上位の成績を収めた選手が受賞
22位:留目夕陽(日本、EFエデュケーション・イージーポスト) |