2019年のジロ・デ・イタリアを完走した日本人トップロードレーサーの1人、初山翔選手(NIPPO・ヴィーニファンティーニ・ファイザネ)が今季限りで現役を引退することを表明した。関係者のコメントも発表されており、現所属チーム解散のため、移籍先を水面下で探したが叶わなかったゆえの決断と見られ、今後のロードレースシーンに課題を投げかけるかたちとなっている。
今季ジロ・デ・イタリアで完走、見せ場つくり注目浴びるも
初山翔は現在31歳。U-23時代をイタリアのアマチュアチームで過ごし、その後宇都宮ブリッツェンでプロ入りしたという異色の経歴を持つ。その後ブリヂストンアンカー時代の2016年、全日本選手権ロードレースで優勝。名実ともにトップ選手の仲間入りを果たした。2018年からは、プロコンチネンタルチームのNIPPOで再びヨーロッパへ活躍の場を移した。
今年のジロ・デ・イタリアでは、第3ステージのスタート直後から144kmに渡る単騎逃げを敢行し大きな注目を集めた。その後もアシストとしてチームに貢献、時にはまた逃げに乗るなど活躍、日本人出場選手として久しぶりに完走。成績は完走した選手の中で最下位だったが、非公式ではあるものの、活躍を讃えられ、かつて存在した総合最下位の選手に贈られる黒色の「マリアネーラ」を贈呈されている。
来季もヨーロッパでの活躍を期待されていたが、UCIの改革のを煽りをうけて所属チームであるNIPPO・ヴィーニファンティーニ・ファイザネ自体が解散となり、去就が注目されていた。以下に選手本人、現所属チームマネジャーのコメントを掲載するが、実力が伴いながらも活躍の場を与えられない現状を示唆しており、今後のロードレース界に課題を残したものとなっている。なお引退にあたって、本人が企画する「自作自演」の送別会を年末に開催するとのこと。
自作自演 初山 翔を送る会
「改めまして、選手 初山翔を応援してくださった皆様、本当に熱いご声援をありがとうございました。
応援してくださった皆様に選手生活13年分の御礼をお伝えしたく、ささやかではありますが、引退パーティーを開催致します」。(実行委員長)
●日時: 2019年12月29日(日)18:00〜21:00 ※17:30より受付開始
●場所: TUBO CAFE
〒192-0083 東京都八王子市旭町12−6 JIビル 3F
TEL:042-645-2434●会費: 6000円
※バイキング方式。アルコール、ソフトドリンク飲み放題込み。小学生以下は2,000円●参加ゲスト: 初山翔実行委員長、畑中勇介副実行委員長
石橋学、岡本隼人、小林マリノ、鈴木譲、椿大志、中根英登、西薗良太…..and more (予定)●MC: 畑中絹代、村上純平
●申し込みURL:https://form1ssl.fc2.com/form/?id=2b5eea91ed8b9f34
※初山の親しい選手仲間も多数集結予定。選手にも参加者にも楽しんでもらえるコンテンツを準備中。
本人・関係者コメント
初山翔のコメント
まずこのような時期まで皆様へのご報告が遅れたこと、大変申し訳なく思っております。来季の活動について皆様にお尋ねいただいたとき、うやむやな回答しかできずにとても心苦しかったです。ご容赦ください。しかし急遽決めたことではなく、時間をかけながら考え、決断したことです。ですので、とても前向きな気持ちでこのタイミングを迎え入れることができました。
特にこの2年間は選手を目指したときからの目標であった欧州プロチームの一員として活動することができました。幸せな選手生活であったと心から思っております。皆様のおかげです。到底ひとりではたどり着けない大舞台をいくつも経験させていただきました。今までご支援、ご声援いただいたすべての皆様に心から御礼申し上げます。また今後もサイクルスポーツは趣味として続けていければと思いますので、今後ともよろしくお願い致します。
大門宏マネージャーのコメント
初山には「これからが人生の本場!これからも勇気を忘れず、覚悟して挑戦し続けろ」と言いたい。近年では、宮澤崇史、福島晋一、橋川健(NIPPOの出身選手ではなかったが)、ならびに日本人選手の成長に多大な貢献をしてくれたイタリア人ら外国籍選手の引退を割と近くで見届けた。初山も決して彼らに引けを取らないチャンピオンの1人。今後どのような道に進むにせよ、これからも自分の好きなことに没頭し続けて、人間としてさらに成長してほしい願っている。人生においては、選手としての“引退”よりもっともっと価値のある“節目”があるからだ。
昔から世界のトップレベルで挑戦させたくてもさせられなかった選手が多くいるなかで、10代後半から日本代表として、またイタリアのクラブチームで過ごしていた初山を、最後の2年間、この“奇跡的なチーム環境”で走らせることができて、本当にラッキーだったと思っている。ラッキーと言うのは単に運が良いと言うのは意味ではない。その真意は初山自身が誰よりも一番感じてるはずだ。
だからこそ、このレベルで走り続ける可能性をギリギリまで追い求めていたと思う。彼はプロのレースにおいてコミュニケーション能力も全く問題ないある意味“人気者”だったので、ステップアップの意味も込めてワールドチームを含む他のプロチームを本人と探したが、芳しい回答は得られなかった。プロチーム以上で走る続けることはヨーロッパ人にとっても物凄く厳しい世界だ。
余談だが、今回ワールドチームの現役監督、代理人にも初山の件を相談した。口々に言われたことは、「フランスでもベルギーでも自国の選手を最優先に選手を集める。日本人なら日本人選手に関心を持つNIPPOのような日本のスポンサーが現れない限り、たとえ実力があったとしてもヨーロッパのチームが契約する理由がない」だった。フランスのワールドチーム、プロチームの選手も約半数はまずフランス人だからと言う理由で契約できており、選手自身だって解ってる。それはフランスのスポンサーにとっても当然のこと。
そう言う“当たり前の事情”は、もう20年以上現地で聞き飽きているが、改めて日本のスポンサーの存在意義を痛感させられた。ヨーロッパのロードレース界を支えているスポンサーのように、企業の威信を掛けて本気で(10代後半からの育成を含めて)ワールドクラスで活躍する日本人選手に関心を抱くパトロンが日本にも求められている。チーム、選手側から“探す”と言うレベルではなく、かつて浅田監督(エキップアサダ)に惚れ込んで、スポンサーを自ら名乗り出た梅丹本舗の松本氏のように積極的に手を挙げる日本のスポンサーが現れない限り、今後このカテゴリーで日本人選手の発掘、強化に携わっていくのは無理だと断言したい。それは、決して我々(NIPPO)のサブスポンサー、または取って代わるスポンサーを求めてる、と言う意味ではなく、ヨーロッパの知人からの助言にもあるように“自国”のスポンサーが、世界中のレースを舞台に色々なチームに分散し、若手からベテランまで、それぞれのカラーで切磋琢磨できる環境が構築されていくことが理想だ。