【全日本自転車競技選手権2019】男子エリート、入部正太朗が悲願の初優勝 新城幸也は2位

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2019年6月27日より静岡県小山町の富士スピードウェイで開催されている「第88回全日本自転車競技選手権ロード・レース」は最終日を迎え、男子エリートが行われた。終盤の激しいサバイバルを生き残り、新城幸也(バーレーン・メリダ)との一騎打ちを制したのは入部正太朗(シマノレーシング)だった。レースの流れを詳報する。

序盤、選手が一気に振り落とされ半数近くに

午前9時、富士スピードウェイのコースとその周辺、1周10.8kmを21周する計227kmのレースがスタートした。強風と断続的に降り注ぐ雨の中、レースは序盤穏やかになるものと思われていたが、新城幸也(バーレーン・メリダ)、別府史之(トレック・セガフレード)など海外勢を含むトップ選手勢がいきなり速いペースで振り落としにかかり、出場した162名の半数以上がリタイヤとなる厳しいスタートとなった。

その後、徳田優(ブリヂストンサイクリング)が単騎で飛び出したところ、集団はこれを容認。序盤で消耗した体力を回復するためかここでレースは落ち着き、結果としてこの14周目半ばまでこの状況が続く。

15周目終盤から激しいサバイバルへ

メイン集団が徳田選手を吸収したあと、激しいサバイバルが始まった。終始、新城の仕掛けを中心に選手たちが駆け引き。18周目の終わりには新城、小石祐馬(Team UKYO)、岡本隼(愛三工業レーシング)の3人がいったん飛び出し先頭集団を形成する。

終盤「先頭集団3人」の入れ替わり起こるも、その中心は新城

18周目から19周目にかけ、駆け引きの中で先頭集団3人の組み合わせが入れ替わっていく。周回終盤の補給ポイントを中心に、小林海(ジョッティ・ヴィクトリア・パロマー)、小石、岡本などが新城にブリッジをかけ小集団が結果的に維持される展開に。最終的には入部正太朗(シマノレーシング)、横塚浩平(Team UKYO)、新城の3人で先頭集団が固定。残れなかった後方と差がつき始め、20周目突入時点で1分10秒に。事実上、優勝争いはこの3人に絞られた。

この時、後方ではこの3人を追うべく別府らが集団内でアピールするが、ここでコントロールに入ったのが入部を送り出したシマノレーシングだった。3人すぐ後の追走集団(5人)に湊諒が取り付き、追走集団のペースが上がらぬようチェック。可能性を潰された後方の選手たちはペースを崩し、遅れていった。

最終盤、勝利にこだわった入部が新城を差しきり、涙の初優勝

生き残った3人は、最終周での勝負にかけ牽制しながら先頭交代を繰り返すが、次第に実力上位の新城が牽かされる場面が多くなっていく。最後の勝負が始まったのは周回半ばを過ぎた上り。最終スプリントまでに差をつけたい新城が仕掛け、横塚が脱落。新城は続いて最後のホームストレッチ直前の緩勾配で再度アタックし入部を振り落そうとするが、入部は食らいつき背後に張り付いた状態で、直線走路へ出た。

国内屈指のスプリンターである入部の渾身の飛び出しに、ワールドツアー常連の日本トップ選手とはいえ、スプリンターでない新城はついていけない。勝負に徹した入部が、願い続けていた悲願の日本チャンピオンジャージを手にした。

「どんな手を使ってでも勝ちたかった」

日本チャンピオンジャージを手にした入部正太朗(シマノレーシング)

プロ8年目、願い続けた悲願のジャージ獲得。入部は終了直後から感極まり号泣し、チームメイト、監督と抱き合いながら喜びを爆発させた。

終了後の記者会見では、終始中心となってレースを動かした新城幸也の強さを讃えながらも、ジャージ獲得への強い想いを吐露した。

「最初から新城選手が強かった。まともにいったら絶対に勝てないので、とにかくクレバーに走った。自分のスタイルは小集団でのスプリントなのでとにかくそれに持ち込むため、新城さんの胸を借りた。付きいち(先頭交代せず後ろで体力温存すること)だったり、セコいと思われるかもしれないが、なんと思われようが、どんな手を使ってでも勝ちたかった。1ヶ月半前に父を亡くし、支えてくれたチームメイトや家族のこともあったし、絶対に勝利したかった」

亡くなった父の入部正紀氏(享年69歳)は、関西では「サイクル工房イリベ」の名で知られた名フレームビルダー。主に競輪選手向けの特注フレームを組み上げていたほかに、体調を悪くするまでは一般向けのクラシカルなスポルティーフまでも手がける名職人だった。亡くなった際、自身のブログに「父との絆は計り知れません。もう一人の自分のように思考も似ていて、今の僕という人間は父親譲りの部分が沢山あります。」と父への想いを語っていただけに、まさに父へ捧げる勝利となっただろう。

終始展開をリードし、レベルの違いを見せつけたものの惜しくも2位となった新城幸也選手は「(勝たないと意味がないと思っていたので)評価はゼロです。強行軍で帰ってきて、いろんな人の力を借りて臨んだだけに悔しい」と気持ちを露わに残念がったが「僕のシーズンはここからなんですよ。3月に骨折してしまって(復帰して1カ月で)ここまでこれた。今日の選手権をスタートにまた頑張りたい」と前を向いていた。

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