第30回を迎えた、アジア唯一のUCIプロシリーズのワンデーレース「ジャパンカップサイクルロードレース」が10月15日午前、宇都宮市郊外の宇都宮市森林公園周回コースで開催された。悪天候で予定の周回数が13周に短縮されるなど厳しい環境となったが、世界王者たちがその実力を見せつける、記念大会にふさわしい戦いとなった。レースの模様を詳報する。
王者の矜持を見せつけるアラフィリップ
スタート直後の2周目から飛び出したのは、前日のクリテリウムに引き続き元世界王者のジュリアン・アラフィリップ(フランス/スーダル・クイックステップ)だった。いきなり主導権を握ろうとする驚きの初動に対抗しようとしたのはロット・デスティニー。昨日のクリテリウムでもスプリント賞を獲得したパスカル・イーンクホールン(オランダ)、マキシム・ファン・ヒルス(ベルギー)を送り込んで頭をおさえようとするが、アラフィリップは彼ら追手をすぐに引き剥がして一人旅の大逃げを打った。厳しいコースプロファイルが当たり前の世界選手権を制した元王者、ツールでも長くマイヨ・ジョーヌを保持した経験もあるだけに、周りとの勝負ではなく自らのペースで雨中でも快調に駆けていく。
雨中のサバイバル、激しさを増す
最大1分7秒差(6周回完了時)をつけ、3周、6周の山岳賞を獲得したアラフィリップだったが、7周目に入ったところから様相は激しく変化する。メイン集団から、再びロット・デスティニーの2人を中心にブリッジをかけようとペースを上げ、アラフィリップが古賀志林道の最高点を過ぎて下りに入ったあとほどなく追いつき、田野交差点前でいったん15人の集団となる。しかし、アラフィリップをまだ盛り立てたいスーダル・クイックステップはファウスト・マスナーダ(イタリア)、ジェームス・ノックス(イギリス)をここに送り込み、アラフィリップとともに3人で戴冠を狙う。この中9周目の山岳賞はその中からジェームス・ノックス(イギリス/スーダル・クイックステップ)が飛び出して獲得した。
一方で、この集団に同じく3人を送り込めたのがアンテルマルシェ・サーカス・ワンティ。こちらも元世界王者、今季は好調のルイ・コスタ(ポルトガル)、ゲオルク・ツィンマーマン(ドイツ)、ロレンツォ・ロータ(イタリア)が集団の中で粘り、上昇の機会をうかがう。
10周目に入ると、ファウスト・マスナーダが集団を引っ張りさらなる揺さぶりをかけようとするが、先頭集団の数は減らず思い思いに牽制をかけあう状況となる。誰がアタックをかけるか注目されたが、まずバウケ・モレマ(オランダ/リドル・トレック)が激しいカウンターをかけて吸収され、さらに飛び出したのはなんと再びアラフィリップ。11周目に入る時には、後続に10秒の差をつけ戴冠への執念を見せる。
再び一人旅が始まるのかと思われたが、激しい足の削り合いはまだ終わらなかった。登坂途中で襲い掛かったのがロット・デスティニーのクライマー、マキシム・ファン・ヒルス(ベルギー)。単騎で後続集団を飛び出すと、ものすごいペースでアラフィリップに追いつき、並ぶことなくそのまま抜き去っていく。勢いそのままに下りでさらに差を広げようとするが、10秒以上差が広がらず、田野交差点を過ぎた付近で再び集団につかまった。
駆けたのは、もう1人の世界王者
大きなアタックが連続して失敗に終わった後、12周目に入る直前に足を爆発させたのがルイ・コスタ(ポルトガル/アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)。ツール・ド・フランスで区間3勝、先月終了したグランツール「ブエルタ・ア・エスパーニャ」でも久しぶりの区間勝利を挙げたばかりの老練なベテランが、満を持して飛び出していく。この飛び出しに追いすがったのがジュリアン・ベルナール(フランス/リドル・トレック)、ギョーム・マルタン(フランス/コフィディス)、フェリックス・エンゲルハルト(ドイツ/チーム・ジェイコ・アルウラー)。12周目はこのトップ4人なかでサバイバルと牽制が続き、ジュリアン・ベルナールは脱落。13周目に入った時点で3人と後続との差は1分6秒となり、優勝争いはこの3人に絞られた。
最終周回となった13周目は、後続との差をにらみながら3人が優勝をかけて睨み合い、それぞれが最良のタイミングでのアタックを狙って牽制。結局はルイ・コスタが得意とする小集団でのゴールスプリントのかたちとなり、2人を抑えてしっかりと伸び切った37歳の大ベテランが、第30回記念のジャパンカップを初参戦で制した。
日本勢は岡本隼が15位獲得
なお、日本勢は最初から海外ワールドチーム、プロチームの激しいペースに押され目立った活躍が見られなかったが、昨日のクリテリウムで一瞬輝きを見せた岡本隼(愛三工業レーシングチーム)が、スプリンターながら先頭集団に入り込むことに成功、粘り込んで日本人最上位の15位(5分8秒差)、アジア最優秀選手賞を獲得した。終了後の会見では「2周目で先頭集団に入ることができたが、あとはワールドチームの速いペースに耐えるだけだった」と自嘲気味に話したが、大きなポテンシャルを見せつけてくれた。
ジャパンカップ サイクルロードレース 2023 RESULTS
総合結果
1位 | ルイ・コスタ(ポルトガル/アンテルマルシェ・サーカス・ワジティ) | 3:28:22 |
2位 | フェリックス・エンゲルハルト(ドイツ/チーム・ジェイコ・アルウラー) | ST |
3位 | ギョーム・マルタン(フランス/コフィディス) | 00:02 |
4位 | マキシム・ファン・ヒルス(ベルギー/ロット・デスティニー) | 00:27 |
5位 | ゲオルグ・ツィンマーマン(ドイツ/アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ) | 01:34 |
6位 | ライリー・シーハン(アメリカ/イスラエル・プレミアテック) | 01:34 |
7位 | アクセル・ザングル(フランス/コフィディス) | ST |
8位 | ロレンツォ・ロータ(イタリア/アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ) | ST |
9位 | ミケール・ヴァルグレン(デンマーク/EFエデュケーション・イージーポスト) | ST |
10位 | ジュリアン・ベルナール(フランス/リドル・トレック) | ST |
山岳賞
3周目 | ジュリアン・アラフィリップ(フランス/スーダル・クイックステップ) |
6周目 | ジュリアン・アラフィリップ(フランス/スーダル・クイックステップ) |
9周目 | ジェームス・ノックス(イギリス/スーダル・クイックステップ) |
12周目 | ルイ・コスタ(ポルトガル/アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ) |