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スポーツ仲裁機構の判断詳細が明らかに 附言で「救済措置に期待したい」

宇都宮ブリッツェンが今年行ったクラウドファンディングページより

先月、東京オリンピックのロードレース選考基準をめぐり、宇都宮ブリッツェンの増田成幸選手が国内での紛争調停組織である「公益財団法人日本スポーツ仲裁機構(JSAA)」に仲裁申し立てを行い棄却されていたが、その判断内容の詳細が25日に文書で公開された。判断としては却下となったが、附言において「救済措置を期待したい」とJCFに何らかの措置を求めていたことが明らかになった。

結論としては「棄却」だが…

JSAAが正式に判断したのは8月3日付。その際は骨子だけの公表であったが、25日に全文が掲載され詳細が明らかになった。増田選手は申し立てで「選考基準の却下」を求め、その理由として以下をあげていた。

  1. レース中断前と同様のレース参加機会が与えられていないこと
  2. 日本のプロチーム所属選手と欧州のプロチーム所属選手との間で、レースへの参加 機会に著しい不公平が生じていること
  3. 追加選考期間の開始日をUCIワールドツアー再開予定日である2020年8月1日としているのは時期尚早であること
  4. 同じ自転車競技であるマウンテンバイク代表選考基準との間に著しい不合理が生じていること
  5. 「機会」の置き換えを求めるIOCの要請に反していること

これらの主張に対し、被申し立て側の日本自転車競技連盟(JCF)側は以下の理由で反論、申し立てを棄却するよう求めていた。

  1. 新選考基準は、出場権の獲得が確実な選手と未確定の選手との間でピーキング(大会本番 に向けた調整)に違いが出ることへの懸念や、選考期間の流動的な延期による選手の心身の疲弊に配慮したもの
  2. 新選考基準の決定時点においては、国内でのポイント対象レースは開催予定であった
  3. 追加選考期間の開始日が時期尚早だったかに関しては、2020年7月1日以降、EUは日本人の入国規制を緩和しており当たらない
  4. 申立人が求める「選考基準の却下」は多大な影響を及ぼし、また他の適当な基準を示していない

JSAAは判断にあたっての基準を、今回は「(そのスポーツの国内統括団体が制定している)規則には違反していないが著しく合理性を欠く場合」に当たるかどうかに設定するとまず規定した上で、JCFが今回設定した新選考基準(追加選考期間の設定)について、著しく合理性を欠くとまでは言えないとし、増田選手の申し立てを棄却した。

「選手を救済する必要性については十分に理解できるところである」

しかし文書の細部を読むと、JSAAは増田選手の申し立てを全否定しているわけではなく、一部彼の主張を理解し、またJCFの反論に一定程度疑念を示していたことが受け取れる。特に、追加選考期間を8月1日からに設定した理由として、JCFが「出場権の獲得が確実な選手と未確定の選手との間でピーキング(大会本番に向けた調整)に違いが出ること、新選考基準において選考の長期化による選手の心身の疲弊に配慮したこと」をあげているのに対し、「出場権の獲得が確実な選手と未確定な選手がいるわけではなく、主張するピーキングの前提条件が存在しない」「居住地により一部の選手には追加選考期間にポイント獲得のチャンスが実質的にないことの不合理性は、選考の長期化による選手の心身の疲弊よりもはるかに大きくまた、回復不可能なものである」と明確に否定している。

さらに、増田選手が「追加選考期間の設定が時期尚早である」と主張した理由である「海外レース出場には1年程度の参加交渉期間が必要であること」および「ルール上60日前までに主催者から大会情報の送付を受けることでレースへの参加が確定すること」を取り上げ、選手には新選考基準(追加選考期間)に則った活動計画と準備期間が必要であるという増田選手の訴えを「首肯できる」と認めている。

つまり、結論としては訴えを棄却することになったが、判断の中では増田選手の申し立てについて一定程度理解できるとしているのだ。そしてその考えが反映されたのが、文書の最後に示された附言だった。ここにその全文を転載する。

なお、新型コロナウイルスの感染拡大に基づくその後の事情の変化により、結果的にレース参加の機会を事実上失った申立人のような選手を救済する必要性については十分に理解できるところである。一旦決定された選考基準が、それ自体は妥当であっても、決定時には予測し得なかった、その後の事態の変化により、選手間に著しい不公平・不平等が生じる場合、一般に、競技団体として選考基準の見直し、不利な状況に陥った選手の救済等の措置を講じることに期待したい。

この附言をそのまま理解すれば、JSAAは新選考基準自体は妥当なので訴えを棄却したが、現状に関して選手間に著しい不公平・不平等が生じていると認識しており、何らかの措置が行われるべきであると考えていることになる。もし何もしなくて良いと考えているのであれば、このような附言を最後にあえてつけることなどしないだろう。

現実化した懸念、海外レース再開でランキングが早速変動

JSAAも認識したように、現状では、国内の選考ポイント対象レースが選考期間中に存在せず、事実上国内選手はオリンピック選考争いに参加すらできない状態だ。以前の記事でも指摘したが、このままでは海外の選手ばかりが選考ポイントを積み上げていき、増田選手をはじめとした国内有力選手は1ポイントも取得できず脱落するだけだ。

そして8月1日のUCIワールドツアー再開日を迎えて間もなく、その懸念が現実化した。8月25日に開催されたUCIワールドツアーのブルターニュ・クラシックに、日本人選手の新城幸也(バーレーン・マクラーレン)と中根英登(NIPPO・デルコ・ワンプロヴァンス)が出場。それぞれ30位、54位でフィニッシュし選考ポイントを獲得した。その結果、中根選手が増田選手をランキングで抜き、選手枠である2位以内に入ったのである。

通常であれば、ここからフェアで激しい代表争いが繰り広げられるはずだが、増田選手には戦う舞台すらまったく用意されていない。既出のように、UCIレースの出場ルールでは60日前までに主催者からレターを受け取らなければ参加できないので、10月17日に終了する選考期間内に、急遽日本から渡航して出場しようとしても、現時点ですでに不可能だ。新選考基準の発表は5月25日に行われたので、そこですぐに動いて可能性のあるレースに出場意思を示せばよかったのではと考える向きもあろうが、その時は国内のレース、特に全日本選手権は開催予定であったし、UCIアジアツアーもまったく再開の目処が見えていなかった。それにヨーロッパへ渡航するには機材移動も考えると莫大な経費がかかり、国内チームで資金計画を気にせず、機動的に参加を決められるところなど皆無だろう。

こうして経緯を見ると、申し立て棄却で事態が解消したわけでなく、実は、事実上事態打開のためのボールがJCFに投げられていることが分かる。国内唯一の権威ある仲裁機関が「救済を期待したい」とわざわざ示しているということを、JCFは重く受け止めるべきなのではないだろうか。

外部リンク:JSSA 仲裁判断文書(PDF)

サイクルジャパン:

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