2019年7月14日、ツール・ド・フランスは、国土中央の「中央山塊」をめぐる第9ステージを迎えた。
スタミナを削り続ける中央山塊のアップダウン、この日も
中央山塊を巡る第1週後半。昨日の山岳だらけの厳しいアップダウンを越えたあとも、ほとんど平坦のないコースが続いていく。この日も最初に1級山岳のあと、30kmあまりも細かなアップダウンを経た後の下り、また登って3級山岳、さらに降ってその後ボーナスポイント付きの3級山岳というレイアウト。逃げ残りしやすいコースと観測されるが、スタミナを削られ続けているライダーたちの中で誰が抜け出すかが注目ポイントだ。
またこの日はフランス国内の祝祭日「フランス革命記念日」である。昨日マイヨ・ジョーヌを再獲得した同国人選手のジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)が、久しぶりに栄誉の黄色いジャージを着用し「凱旋ステージ」を飾ることになった。この記念すべき日にフランス人がマイヨを手放すことがあってはならない、そんなモチベーションがプロトンにも満ちることだろう。
14人もの逃げ集団形成、プロトンは休息へ
レースはスタート直後に飛び出したニルス・ポリット(ドイツ・カチューシャ、アルペシン)の動きをきっかけに、逃げに乗りたい有力選手が次々と仕掛け、最終的には14人もの集団となった。
この中にはタイムトライアルスペシャリストのトニー・マルティン(ドイツ、ユンボ・ヴィスマ)、ツールのステージ優勝経験者エドヴァルド・ボアソン・ハーゲン(ノルウェー、ディメンジョン・データ)、ニコラス・ロッシュ(アイルランド、チーム・サンウェブ)など昨日以上の実力者が含まれていた。この人数と陣容ならば、現実的に逃げ勝利が狙えるとあって全員の利害が一致。統制のとれた先頭交代で巡航速度をどんどん上げ、早々にメイン集団と10分以上の差を築いていく。
メイン集団は、逃げ集団との差をあまりキープせず「リラックス」した状態で走り続け、差が広がることを容認する雰囲気になっていく。第2週以降のさらに厳しいステージに向けての休息、またアラフィリップの革命記念日「凱旋」を祝福する目的もあったのか、このままいつしかグルペットのようになり、あまりスピードを上げずゴールを目指すこととなった。
14人の中から勝ち残ったのは
残り40km付近、最後の3級山岳へ向けての区間に差し掛かると、逃げ集団の中からステージ勝利へ向けたアタック合戦が始まる。まずティシュ・ベノート(ベルギー、ロット・ソウダル)を先頭に4人が逃げ集団からの抜け出しをはかり、さらにその中からルーカス・ペストルベルガー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)がアタック。一時は45秒まで後続との差を広げた。
しかしこのチャレンジは最後の登り前に潰され、山岳が得意のニコラス・ロッシュ、ベノートらが先頭グループを形成する。そしてその最後の峠「サン・ジュスト」の山頂直前、タイミングをはかっていたダリル・インピー(南アフリカ、ミッチェルトン・スコット)がアタックし、先頭で通過。以上の3人で先頭集団を形成した。
その後この3人の中からベノートがアタック。ロッシュはついて行けず脱落し、アタックに対応したインピーと一騎打ちのかたちとなった。
マッチスプリントをインピーが制す 南アフリカ勢で12年ぶりステージ優勝
スプリント勝負になると踏んだ2人は、このまま力を温存しながら残り1kmを通過、最終局面を迎える。残り200m付近から先に動いたのはベノート。優勢になりかけたが、インピーがしっかりと差し返しスプリント力を見せて先着した。自身、ツールでのステージ初優勝、南アフリカ勢としては2007年第11ステージのロバート・ハンター以来の勝利となった。
その後、メイン集団はインピーから16分25秒後に到着。この日は争いは起きず、したがって各賞ジャージの顔ぶれも変わらなかった。マイヨ・ジョーヌを維持したアラフィリップは「7月14日(フランス革命記念日)をマイヨジョーヌで過ごせてとても嬉しかった」と喜びを表現した。
なお、レース序盤には残念な事故が起きていた。昨日優勝争いを演じたアレッサンドロ・デ・マルキ(イタリア、CCC)が序盤で単独クラッシュを起こし転倒、立ち上がることができず、ストレッチャーで病院で搬送される事態となり心配された。その後、チームより左眼窩底骨折、左肋骨骨折、小さな気胸を伴う左肺挫傷によりリタイヤすることが発表された。鎖骨修復の手術を受けるかは今後の経過観察で決まるという。デ・マルキはチームの発表にコメントを寄せ「ステージに勝つことなくツール・ド・フランスを去ることが本当に残念」と心情を吐露している。