留目夕陽がUCIワールドチーム「EFエデュケーション・イージーポスト」に昇格 トップカテゴリの選手が2人に

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UCIワールドチーム「EFエデュケーション・イージーポスト」は22日、日本企業NIPPOが支援する下部チームから留目夕陽(22)を昇格させると発表した。自転車ロードレースのトップカテゴリである「UCIワールドツアー」に来季臨む日本人選手は、新城幸也に続いて2人目となった。プレスリリースより本人のコメント、および長年日本人選手のヨーロッパ挑戦を支援するTeam NIPPO大門宏代表のコメントを掲載する。

チームの公式発表

本日、チームは留目夕陽と来シーズンの契約を締結したことを発表する。日本人のルーキーは、初めてワールドツアーにステップアップすることになる。

今日、夕陽はサイクリングなしの人生を想像することはできないが、常にそうだったわけではない。

「ツール・ド・フランスを初めて見たのは高校3年生のときだった。すごくクールだった!」

触発された彼は、すぐにこのスポーツを始めた。高校と大学のチームでレースをした後、EF Education-NIPPO Development Teamに参加。過去2シーズン所属している。元U23タイムトライアル日本チャンピオン。2022年ツール・ド・北海道では山岳賞ジャージを獲得し、総合優勝したチームリーダーをサポートした。

21歳の彼はタイムトライアリストとして有能だが、まだ発展途上であり、山岳が最も得意とするところである。

「僕はクライマーだと思う。自分を最大限にプッシュするのが好きなんだ」

夕陽にとって来年はEF Education-EasyPostでの最初のシーズンとなるが、2022年のツール・ド・ランカウイでは練習生としてワールドツアー・チームとレースし、総合2位となったヒュー・カーシーをサポートした。EFエデュケーション-イージーポストでの初レースを振り返り、夕陽は自分にとって重要な学習経験だったと語る。

「栄養について学び、レースで自分がどのような状態だったかを知ることができた。初めてだったので緊張しましたが、楽しかったですし、チームの雰囲気もとても良かったです。チーム全体が僕を歓迎してくれた」

彼を支えたのはチームメイトだけではない。

「EF Education-EasyPostに入団するという知らせを聞いて、家族も泣いてくれました。私がレースを始めたときから、家族はずっと応援してくれています」

自転車に乗っていないときは、ショッピングを楽しんだり、コーヒーを飲みながら友人と話したりする。つい最近まで、東京の中央大学の図書館で勉強していた。

「日本法を専攻していますが、今は休学中です。今は完全にサイクリングに集中しています」と彼は説明する。

夕陽は2024年シーズンの開幕を心待ちにしている。

「夢は叶う!このような素晴らしいチームで走れることをとても嬉しく思っています。ワールドツアーチームの使命は難しいですが、全力を尽くします!」

留目は12月上旬にチームが拠点を構えるスペイン・ジローナでのトレーニングキャンプに参加。監督ら首脳陣とのミーティングも予定されており、今後のスケジュールも順次確定していく。

留目夕陽(とどめ ゆうひ)プロフィール

2002年6月18日生まれ(21歳)東京都出身。身長175cm/体重61kg。登坂、タイムトライアルを得意とする。

主要リザルト
2022
・UCI世界選手権ロードU23 個人TT21位
・ツール・ド・北海道 山岳賞
・全日本選手権ロード個人TT 優勝
2023
・UCI世界選手権ロードU23 個人TT23位 ロードレース 36位
・ツール・ド・ラヴニール
第7ステージ(山岳個人TT)13位 個人総合24位
・ツール・ド・九州 第2ステージ 3位

EFエデュケーション-イージーポスト
ジョナサン・ヴォーターズ
CEOのコメント

私たちの2024年ロースターは、ここ数年に比べて明らかに若くなっています。ワールドツアーデビューとなる選手も何人かいるので、夕陽はうまく溶け込むでしょう。チームメイトのベテランの経験や知識を生かせるルーキーを最後の1人に選びたかったのですが、夕陽のおかげでそれが見つかりました。

留目夕陽コメント

中学3年生のときに自転車を買ってもらい、趣味程度で乗り始めました。当時の自転車は10万円ほどでしたが、中学生からするととても高価なものでした。徐々に自転車が楽しくなり、“自転車競技部がある高校”に絞って受験しました。そこから、大会への送り迎えや遠征費、自転車の本体やパーツ、ジャージなど他の部活とは比較にならないような多くの金額が掛かっていたと思います。

高校1年生のときに、チームユーラシアでベルギーに行き、プロになってみたいと思い始めました。しかし、コロナとも重なり、海外遠征には行けない日々が続きましたが、めげずにトレーニングに励みました。
そして、中央大学に進学後、U23の1年目でツール・ド・ラヴニールに出場しましたが、結果はズタボロ。自転車競技に向いていないと実感し、挫折も味わいました。でも辛いときに家族が側に入れてくれ、常に応援してくれてたことを今でも覚えています。

その後、一度本気で自転車競技を辞めようと思いましたが、大門さんからの誘いもあり、EFエデュケーション・NIPPO ディベロップメントチームに所属することになりました。そこから約2年間、U23カテゴリー3年目の今季は、ツール・ド・ラヴニールで総合24位、そして世界選手権でもUCIポイントを獲得するなど結果を出すことができ、諦めないで自転車競技を続けてきて良かったと感じています。そしてワールドチームに所属するという僕の夢が叶いました。ずっと側で応援してくれた家族はすごく喜んでいました。ここまで頑張ってきて本当に良かったです。

次の目標はただ所属しているだけでなく、しっかりと活躍することです。もちろん今までとは大きく違い、エースのために頑張ることや、レース以外の活動などワールドチームの重圧もあります。でも、ここで与えられたチャンスを無駄にせず、日本人でも世界と戦えるところを見せたいです。

Team NIPPO 大門宏代表のコメント

2年前からジョナサン・ヴォーターズCEOから「将来有望な日本人選手が現れたらぜひ推薦してほしい」と言われていた。“世界ランキングで勝負できる日本人選手の育成”を、スポンサーの基本姿勢とする株式会社NIPPOには、これまで何度も留目がいかに優れた選手であるか説明しており、今回、候補として推薦してもらったことがこの移籍に直結したが、欧米のエージェント(代理人)間のネットワークでは日本人選手の発掘に関しての情報は皆無らしく、思うようには進まなかった。しかし個人的にも彼は絶対上のカテゴリーにいくべき選手だと確信していたので、他の育成チームを所有しているワールドチームやプロチームにも相談して、それなりの手応えは得ていた。

彼もコロナ禍にさいなまれ、ヨーロッパで決して多くのレースを経験したわけではないが、それらの不運な要因を差し引いても彼の素質は際立っていた。たとえば世界選手権の個人タイムトライアル(U23)でトップから2分前後のタイム差は、国別のランクでも10~15位の成績。アジアではカザフスタンも抜いてダントツトップであり、ヨーロッパ諸国と十分に戦えるレベルであることを証明している。そういう実績からも、近年で最もヨーロッパのレベルに迫ったU23の日本人選手と言える。彼が非凡な選手であることは、日本の同世代の選手なら間違いなく誰もが認めるところだと思う。

大学の休学も、彼が自身の能力、可能性に賭けて自ら考えた発想。世界を見渡せば他のオリンピックスポーツで休学や留年を繰り返しながらメダルをめざすアスリートを全力でサポートする環境は珍しくないが、日本では大学を4年間で卒業することがまだ重要視されているため、このような概念をもった選手は日本では珍しい。もちろん日本の社会の常識では賛否両論あるとは思うが、彼の奥深い探究心の一端を垣間見た気がした。

この移籍は、ヨーロッパのエージェントが絡まない日本人の留目にとって不利な状況だった。フランスのチーム、スポンサーはフランス人との契約を最優先に考え、ベルギーのチーム、スポンサーはベルギー人を最優先に考えるのは当然で、自国以外の若手外国選手の将来性に賭ける可能性は著しく低い。しかし、EFエデュケーション・イージーポストは、アメリカ籍のチームだがアメリカ人優先のチームではなく、獲得選手は、10名の監督とエージェントのネットワークからのアドバイスで決める傾向が強いが、留目を唯一よく知る、どちらかというと若手教育係のティジェイ・ヴァン・ガーデレン監督(2022年のツール・ド・ランカウイで帯同)が、留目のことをプッシュしてくれたようにも思う。最終的にはヴォーターズCEOからも、エージェント網に引っ掛からなかった“隠れた宝石”として、素質や将来性を認めてもらった。

今日、U23の選手に向けられるワールドチームの期待は一昔前とは全く違う。近年、ワールドツアー(グランツール)では、新人賞世代の活躍が目立ち、どこのワールドチームも桁外れの“逸材”を探し求めている。そういう意味では、たとえ新米選手でも「今日はアシストとしての技量を評価する」など悠長な考えは通用しない。酷だが、今や重要なアシスト稼業はライバルチームからベテラン選手を引き抜く時代で、新人選手に任せることは少なくなってきており、アシストだけやっていればチームに残れる時代ではない。もちろんそれは留目だけではなく、来年ネオプロとしてワールドチームでデビューするU23の選手全員にとっても同じことで、修羅場の2シーズンになると思っている。ワールドチームの首脳陣の期待が格段と大きくなる一方、2年後に契約を更新できる選手は正直なところ数パーセントになるだろう。彼らにとってまさに“生き残りを掛けた戦い”がシーズン早々始まるわけだが、個人的には留目と、選手人口の多いヨーロッパ人選手と、同等のふるいに掛けて評価したいとは思わない。留目にとって今まで経験したことのない、我慢を強いられる世界が待ち受けていることは間違いないが、冷静に彼の成長を見守りながら、的確なアドバイスをしていくことが大切だと思っている。

当初、留目は単年契約を強く望んでいて、僕もEF側も少々戸惑った。彼の思惑は「初年度の感触次第で2年目を決めたい。将来が見通せないほどレベルの差を実感しながら、2年目を迎えるのは耐えがたい」とういうもの。ヨーロッパの若い選手にとって、ネオプロの2年契約はある意味“救済制度”だが、そのような非凡な姿勢からも、伸び伸びとして自由奔放な“留目らしさ”を感じたが、そう言う感覚こそが彼の真骨頂であり、これからも失ってほしくないと思っている。

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